暑さは、窓から入ってきます

この夏の暑さが記憶に新しいうちに、書いておきたいことがあります。

「うちは古いから夏は仕方ない」とおっしゃる方が、本当に多いんです。でも、仕方なくない部分がかなりあります。夏に室内へ入ってくる熱の量を調べた資料を見ると、その多くが窓から入っているとされています。壁でも屋根でもなく、窓です。ガラスは薄いですし、そもそも日射をそのまま通してしまいますから。

菊池です。

ということは、家全体をやり直さなくても、手を打てる順番があるということです。まずは窓。内側にもう一枚窓を足す内窓なら、壁を壊さずに一日で終わることもあります。そのうえで、西日の当たる面に外側から日射を遮るものを足す。順番としては、この二つが先です。

なぜ順番の話をするかというと、リノベーションのご相談で「まず床を張り替えたい」「壁紙を変えたい」と切り出される方が多いからです。見えるところから直したくなる気持ちはよく分かります。ただ、暑さや寒さが理由でその部屋を使わなくなっているのなら、内装をきれいにしても使わないままです。快適さを先に直してから、見た目を直す。そのほうが結果として満足度が高い。

内窓については、住みながら工事ができるという点も大きいと思います。一部屋ずつ、予算に合わせて進められる。全面改修のように仮住まいを探す必要もありません。「いつかまとめてやろう」と何年も置いておくより、つらい部屋から一つずつ手を入れていくほうが、実は暮らしは早く良くなります。

もちろん、窓だけで全部が解決するわけではありません。天井裏の断熱がほとんど入っていないお宅もありますし、風の通り道が家具でふさがれているだけ、ということもあります。ですから最初に伺って、まず住んでいる方の話を聞きます。どの部屋の、何時ごろが、いちばんつらいのか。そこが分かれば、優先順位はだいたい決まります。

そして、この相談は今の時期が一番いいと思っています。9月に入ると暑さの記憶が薄れて、話が翌年に持ち越されてしまう。来年の夏に間に合わせるなら、動き出すのは秋です。

暑い部屋がある。それだけで十分な相談の理由になります。

それでは、また。

No.7229

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夏の終わりに、床下を開ける

八月も終わりですね。この時期に一度見ておきたい場所があります。床下です。

菊池です。

先日、点検で伺ったお宅で和室の点検口を開けさせていただきました。夏のあいだ、地面から上がってくる湿気と、外から入ってくる暖かい空気。この二つが一年でいちばん重なるのが、実は夏の終わりなんです。冬に結露を気にされる方は多いのですが、床下に関しては夏のほうが条件が厳しい。

開けてまず見るのは、基礎のコンクリートの色です。全体が均一なら問題ありませんが、一か所だけ色が濃く残っている場所があれば、そこは水が来ている可能性があります。次に配管まわり。給排水の管が基礎を抜けているところは、わずかな漏れが長く続いていても気づかれにくい場所です。触ってみて手が濡れるかどうか、そこは必ず確認します。

それから断熱材です。床の裏に入れた断熱材が、部分的に垂れ下がっていることがあります。落ちてしまっていると、その真上の床だけが冬に冷たくなる。「この部屋だけなんとなく寒い」というご相談の原因が、ここだったことは何度もあります。

大事なのは、こうしたものが今日明日どうにかなる話ではないということです。床下の不具合はゆっくり進みます。だからこそ、記録が効いてくる。三年前の写真と並べて「去年より濃くなっていますね」と言えるかどうかで、打つ手も費用もまるで変わります。建物100年サポートで点検の記録を残し続けているのは、その一言を言えるようにしておくためです。

ご自身で潜っていただく必要はありません。ただ、点検口がどこにあるかだけは知っておいていただきたいと思います。たいていは洗面所の下か、和室の押入れの中です。いざというとき、開けられる場所を知っている家と知らない家では、対応の速さが違います。

九月の点検のご依頼が増えてくる時期です。しばらく見ていないな、という方はお気軽にお声がけください。

それでは、また。

No.7227

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止めないで、直す

この時期になると、住宅とは別の窓口から相談が増えてきます。工場や倉庫、店舗、事業所といった建物の改修のご相談です。

菊池です。

なぜ夏の終わりかというと、多くの会社さんが下期の予算を組み始めるからです。「この夏はさすがに暑すぎた」「雨漏りをもう一年放っておけない」。そういう実感が新しいうちに、社内で話が動く。わたしたちのところに来るのは、たいていそのタイミングです。

こうした建物の工事が住宅と決定的に違うのは、お客様の商売が動いたままだということです。工場のラインは止まりません。倉庫にはトラックが入ってきます。店舗にはお客様が来ます。「工事のあいだ一週間休んでください」とは、こちらからは口が裂けても言えません。

ですから、最初にお聞きするのは仕様ではなく、時間割です。何曜日の何時なら音を出していいのか。どの通路をふさぐと物が動かなくなるのか。搬入は何時に来るのか。従業員の方の休憩室はどこか。それが分かってはじめて、工事を細かく切って並べ直す作業に入ります。一気に3日でやれば安く済む工事を、夜だけ、あるいは日曜だけに分けて六週間かける。結果としてそのほうが、お客様の損失は小さくなります。

粉じんと音も同じです。生産している物のすぐ横で削れば、それは製品に付きます。だから養生に手間をかけますし、匂いの出る材料は使う日を選びます。近隣にお住まいの方への挨拶も、事前に一度では足りないと思っています。

正直に申し上げると、こういう仕事は工程表がきれいになりません。細切れで、待ち時間もあって、効率だけを見れば褒められた工事ではないでしょう。それでも、お客様の会社が一日も止まらずに済んで、工事が終わったときに「気づいたら直っていた」と言っていただけたら、それが特殊建築のいちばん良い終わり方だと思っています。

建物を良くする工事で、お客様の商売の足を引っ張っては本末転倒ですから。

それでは、また。

No.7226

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副操縦士は乗せるが、機長は譲らない

まだまだ暑い日が続きますが、朝の空気だけは少し変わってきました。

菊池です。

このところ、建設業とAIの話題を目にしない日がありません。業界紙を開けば必ず載っていますし、同業の集まりでも「そちらは何か入れました?」という話になります。

背景ははっきりしています。国土交通省が二年前に打ち出した「i-Construction 2.0」では、2040年度までに省人化3割、生産性1.5倍という目標が掲げられました。建設業で働く人はピーク時から3割ほど減り、いまは55歳以上が4割近く、29歳以下は1割強と言われています。人は減っているのに、工事の量はむしろ増えている。だから機械とAIに手伝ってもらうしかない、という話です。

大手の事例はたしかにすごい。制御室から指示を出せば複数の重機が自分で判断して土を運ぶ仕組みや、7万件規模の災害事例をAIで検索して、その日の作業に近い事故を先回りで拾い出す仕組み。設計でも、条件を入れると数分で複数の案が出てくるそうです。

では、わたしたちのような地域の会社は何ができるのか。正直、明日から重機を無人にするのは現実的ではありません。けれど、書類は別です。日報、議事録、安全書類の下書き。ここは規模に関係なく、今日からでも軽くできます。机に向かう時間が減れば、その分だけ現場とお客様のところに立てる時間が増える。わたしにとってのAIの意味は、そこに尽きます。

ただ、忘れてはいけないことがひとつあります。AIは、もっともらしい間違いを平気で出します。そして法律上、最終的な責任を負うのは、いつまでたっても人間の技術者です。ある記事に「AIは副操縦士であって機長ではない」という言い方が出てきて、なるほどと思いました。副操縦士は喜んで乗せます。でも操縦桿は渡さない。

それに、AIが代われないものもあります。敷地に立ったときの風の抜け方。20年前に自分たちが建てた家に伺って、床の傷の付き方を見て「よく使ってくださっているな」と感じること。あれは数値になっていません。数値になっていないものを見に行く時間を、機械につくってもらう。そういう順番でいたいと思っています。

それでは、また。

No.7224

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敷地に立って、見ているもの

今日は暦のうえでは処暑にあたるそうです。暑さが少しずつおさまっていく頃、という意味だと聞きました。実際にはまだしばらく続きそうですが、日の入りは確実に早くなってきました。

菊池です。

この季節になると、土地探しのご相談が増えます。秋から動いて、来年の春に着工したいという方が多いためです。それで、お客様と一緒に候補地を見に行く機会が続いています。

土地を見に行くとき、わたしが何を見ているか、少しだけ書いてみます。

まず、前面道路です。幅と、そこがどちらを向いているか。道路の向きは、日当たりだけでなく、駐車のしやすさや玄関の置き場所まで決めてしまいます。次に隣の家の窓の位置。ここを確認しておかないと、リビングの大きな窓が、お隣の浴室と向き合う設計になりかねません。

それから高低差です。道路より敷地が高い、あるいは低いというのは、そのまま工事費に効いてきます。擁壁がある場合は、その状態も見ます。あわせて、雨のときに水がどちらへ流れるかも想像します。まわりより低い土地は、地図の上では判断できません。

電柱と引込みの位置も確認します。地味ですが、あとから「ここに電線が来るとは思わなかった」となることがあるので。

そして、これがいちばんおすすめなのですが、同じ土地に二回行ってみてください。朝と、夕方です。時間帯が変わると、日の入り方も、人や車の通り方も、聞こえてくる音もまったく違います。一回だけの印象で決めてしまうのは、少しもったいない。

最後に、これは設計の話になりますが、土地は単体では評価しきれないと思っています。少し狭くても、少し変形していても、そこに入る間取りが良ければいい土地です。逆もあります。ですから候補が絞れてきたら、契約の前にご一報ください。図面を一枚描いてみるだけで、判断材料はずいぶん増えます。

秋の空気になったら、また現地を歩きましょう。

それでは、また。

No.7222

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建てないで、使い方を変える

住宅以外の建物を扱う部門にいると、ここ数年で明らかに増えたご相談があります。「この建物、別の使い方にできませんか」というものです。

菊池です。

例えば、使わなくなった倉庫を店舗にしたい。事務所だったところを、子ども向けの教室にしたい。作業場の一部を、地域の人が集まれる場所にしたい。新しく建てるのではなく、いま建っているものの役割を変える。土地の値段や工事費が上がっているいま、これは現実的な選択肢だと思っています。

ただ、内装を変えれば済む、という話ではありません。建物の使い方を変えると、法律上の扱いそのものが変わります。人が多く集まる用途になると、避難のための出口や通路、内装に使える材料、非常用の照明といった要件が、住宅や倉庫のときとは別物になります。床面積が一定の規模を超える場合には、用途を変えるだけでも確認申請が必要になります。

ここで最初の関門になるのが、既存の書類です。検査済証が見つからない建物が、思いのほか多い。書類がないと、いまの建物が当時の法律にきちんと適合していたことを説明できません。その場合は調査から入ることになり、時間も費用もかかります。逆に言えば、書類が揃っている建物は、それだけで話が早く進みます。

ですから、この種のご相談をいただいたとき、わたしたちが最初にお願いするのは、図面と確認済証、検査済証を探していただくことです。倉庫の奥の段ボールから出てきた、ということも実際にありました。

こうした仕事は、正直、派手ではありません。完成しても、新築のような見栄えの変化があるとは限らない。それでも、誰も使わなくなった建物に人が出入りするようになるのを見ると、これは残す仕事だったな、と思います。

お手元の建物で気になっているものがあれば、構想の段階でお声がけください。できるかどうかを先に見極めるのが、いちばんお金のかからない進め方です。

それでは、また。

No.7221

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主治医、という言い方

先日、若いスタッフに会社案内の内容を説明していて、自分でも改めて考え込んだ言葉がありました。

菊池です。

わたしたちは会社の紹介の中で、自分たちのことを「建物の主治医」と書いています。そして「命の視点から建物を見る」という言い方をしています。建設会社の説明としては、少し変わっていると思われるかもしれません。

創業は昭和三十五年です。相模原、町田、八王子を中心に、六十年以上この仕事を続けてきました。その間に建て方も材料も大きく変わりましたが、途中で強く意識するようになったのが、建物が人の体に及ぼす影響でした。シックハウスという言葉が世に出て、建物のせいで具合が悪くなることがあると知られるようになった時期です。

正直に言えば、建設業界全体がその視点に慣れているとは、いまも思っていません。図面の納まりや工期や金額の話はいくらでも上手になるのに、そこで毎日呼吸する人のことは、後回しになりやすい。自戒を込めて書いています。

「主治医」という言い方を選んだのは、たぶんそこに理由があります。専門医は難しい症例を治しますが、主治医の役割は少し違います。普段のその人を知っていること。前はどうだったかを覚えていること。そして、まだ症状が出ていない段階で「ちょっと様子を見ましょうか」と言えること。建物に対して、わたしたちがやりたいのはそちらのほうなんです。

だから引き渡しのときに、ここで区切りです、という気持ちにはなりません。むしろ、カルテの一ページ目が書き終わったところだと思っています。十年後に「あのときこうしましたよね」と話せる相手でいたい。そのためには、建てるときの判断も、十年後に説明できるものでなければいけない。

会社としては「サービスを超えた感動を提供する」という言い方もしています。壮大に聞こえますが、現場でこれを翻訳すると、案外地味な話になります。言われる前に気づく。覚えている。それだけのことを、何十年も続けられるかどうか。

まだできていないことのほうが多いです。だからこそ、書いて残しておこうと思いました。

それでは、また。

No.7219

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雨が降る前に、上を見る

朝晩に少しだけ風が変わってきましたが、これから本番を迎えるもの台風です。

菊池です。

毎年この時期になると、九月の大きな雨のあとに「天井にシミが出た」というご連絡をいただく場合があります。そして現地に伺うと、原因が台風そのものではないことが少なくありません。もともと詰まりかけていた、外れかけていた、切れていた。そこに強い雨と風が来て、限界を超えた。順番としては、そういうことが多いんです。

そこで、雨が降る前に一度だけ上を見ていただきたいと思っています。難しい点検の話ではありません。地上から見上げてわかることが、意外とあります。

まずは雨樋です。夏のあいだに落ち葉や砂が溜まって、水が流れきらなくなっている家は本当に多い。雨の日に樋の途中から水が滝のようにこぼれていたら、そこが詰まっています。次にバルコニーの排水口。ここは目線の高さで確認できますから、落ち葉やほこりを取り除くだけで、かなり違います。

それから外壁の目地です。指で押してみて、ゴムが硬くなっていたり、細く切れていたりしたら、そろそろ手を入れる時期です。屋根については、棟の板金を留めているビスが浮いて、金物が少し波打って見えることがあります。双眼鏡やスマートフォンのカメラで拡大して見る程度にしてください。ご自身で屋根に上がるのだけは、本当にやめていただきたいです。毎年、その事故の話を聞きます。

そしてもうひとつお願いしたいのが、記録を残すことです。日付を入れて写真を撮っておく。それだけで、次に何かあったときに「前からこうだったのか」「この一年で進んだのか」が判断できます。わたしたちが建物100年サポートで点検の記録を蓄積しているのも、理由は同じです。一回の点検は、その日の状態しかわかりません。二回目からが診断になります。

見上げてみて気になるところがあれば、遠慮なくご連絡ください。降ってからだと、どうしても応急処置が先になってしまいますので。

それでは、また。

No.7218

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壁が、熱を持っていない

お盆が明けて、現場もようやく普段どおりに動きはじめました。

菊池です。

先週の終わりに、外壁の仕上げが終わった現場へ行ってきました。その日の日中は三十四度。駐車場に停めた車のボンネットは、触れたら思わず手を引っ込めるくらいの熱さでした。ところが建物の南面に回って外壁に手を当てると、ほんのり温かい程度なんです。壁が熱を溜め込んでいない。何度立ち会っても、ここは少し不思議な感じがします。

わたしたちの家は「クワトロ断熱」という考え方で外まわりをつくっています。四つ、というのは材料の数ではなく、持たせている性能の数です。遮熱、断熱、調湿、透湿。この四つを、外側から順に重ねた材料に分担させています。

いちばん外側は中空セラミックを混ぜ込んだ塗り壁で、太陽の光を七割以上跳ね返します。熱を防ぐというより、そもそも受け取らない。その内側に外断熱のボードがあり、さらに内側にセルローズファイバー、いちばん室内側に漆喰や無垢材の壁が来ます。手のひらに熱が伝わってこなかったのは、外側で光を返しているからです。

夏の家づくりの話になると、断熱材の厚さの話に行きがちです。もちろん厚さも効きますが、真夏に効くのは、その前段で日射をどれだけ受け取らずに済ませるかのほうだと感じています。屋根と壁が焼けてしまったら、内側で何をしても後追いになります。

もうひとつが湿度です。同じ二十八度でも、湿気が抜けている部屋と、こもっている部屋では体感がまるで違います。セルローズファイバーと漆喰は、湿気の多いときに吸って、乾いたら吐き出す。だから設定温度をむやみに下げなくても、それなりに過ごせてしまう。

完成見学会でお客様が玄関に入って「あ、涼しい」とおっしゃることがありますが、あれは温度計の数字の話ではないと思っています。壁が熱くない、空気が重くない。そのふたつが揃ったときの感じ方なんだろうと。

残暑はまだ続きます。もしこの時期に見学の機会があれば、ぜひ壁に手を当ててみてください。

それでは、また。

No.7217

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残すものを、先に決める

築五十年の家をリノベーションしたことがあります。座間市の、二世帯のお住まいでした。

菊池です。

こういう仕事で最初に決めるのは、どこを新しくするかではありません。何を残すか、のほうです。

順番が逆に思われるかもしれません。ただ、残すものが決まっていないまま解体に入ると、たいてい全部なくなります。現場では、剥がすほうが早くて確実だからです。あとから「あの建具、取っておけばよかった」となっても、もう戻せません。

では何を残すか。多いのは、太い柱や梁です。いまの材料では手に入らない寸法のものが入っていることがあります。それから、古い建具。欄間やガラス戸には、当時のガラスが残っていたりします。あとは、子どもの背丈を刻んだ柱の傷。こればかりは、金額の話ではありません。

反対に、変えるべきものははっきりしています。耐震と断熱、それから水まわりです。

昭和五十六年より前に着工した建物は、いまとは違う耐震基準でつくられています。柱や梁を活かすと決めたなら、そのぶん構造の補強はきちんと行う。断熱も同じで、外まわりの性能を上げないと、いくら内装をきれいにしても、夏に暑くて冬に寒い家のままです。

ここで難しいのは、残したいものと、残せるものが一致するとは限らないことです。柱を残したいと思っても、その位置に壁が要る、あるいは腐りが入っている、ということが起こります。その場合は、無理に残さず、別のかたちで使う方法を探します。梁を化粧材として見せる、建具を別の場所に建て込む、板を家具の天板に加工する。原型のままでなくても、その家にあったものが残れば意味はあると考えています。

残すことは、必ずしも安く済む方法ではありません。既存を活かしながら手を入れるほうが、手間も判断も増えます。それでも選ぶ理由があるとすれば、新築では絶対に手に入らないものがそこにあるから、ということに尽きます。時間の積もった木の色は、新品では出せません。

解体前に、ご家族と一緒に家の中を歩く時間をいただくようにしています。ここは残したい、ここは思い入れがない。そう伺いながら、印をつけていく。

新しくすることと、なかったことにすることは、違います。

それでは、また。

No.7215

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