
築五十年の家をリノベーションしたことがあります。座間市の、二世帯のお住まいでした。
菊池です。
こういう仕事で最初に決めるのは、どこを新しくするかではありません。何を残すか、のほうです。
順番が逆に思われるかもしれません。ただ、残すものが決まっていないまま解体に入ると、たいてい全部なくなります。現場では、剥がすほうが早くて確実だからです。あとから「あの建具、取っておけばよかった」となっても、もう戻せません。
では何を残すか。多いのは、太い柱や梁です。いまの材料では手に入らない寸法のものが入っていることがあります。それから、古い建具。欄間やガラス戸には、当時のガラスが残っていたりします。あとは、子どもの背丈を刻んだ柱の傷。こればかりは、金額の話ではありません。
反対に、変えるべきものははっきりしています。耐震と断熱、それから水まわりです。
昭和五十六年より前に着工した建物は、いまとは違う耐震基準でつくられています。柱や梁を活かすと決めたなら、そのぶん構造の補強はきちんと行う。断熱も同じで、外まわりの性能を上げないと、いくら内装をきれいにしても、夏に暑くて冬に寒い家のままです。
ここで難しいのは、残したいものと、残せるものが一致するとは限らないことです。柱を残したいと思っても、その位置に壁が要る、あるいは腐りが入っている、ということが起こります。その場合は、無理に残さず、別のかたちで使う方法を探します。梁を化粧材として見せる、建具を別の場所に建て込む、板を家具の天板に加工する。原型のままでなくても、その家にあったものが残れば意味はあると考えています。
残すことは、必ずしも安く済む方法ではありません。既存を活かしながら手を入れるほうが、手間も判断も増えます。それでも選ぶ理由があるとすれば、新築では絶対に手に入らないものがそこにあるから、ということに尽きます。時間の積もった木の色は、新品では出せません。
解体前に、ご家族と一緒に家の中を歩く時間をいただくようにしています。ここは残したい、ここは思い入れがない。そう伺いながら、印をつけていく。
新しくすることと、なかったことにすることは、違います。
それでは、また。
No.7215
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